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真夜中のジェラシー

私は猫である。名前ももうある。現在は大学生のご主人さまと二人暮らし。そんなご主人さまは、大学での授業を終えた後、今まさに台所で奮闘中だ。料理下手の彼女らしからぬ、なにやらケーキを作っている様子…。

真夜中のジェラシー(後半)

「あっ...!」

飼い主の悲痛な叫び声。
その手から滑り落ちていくチョコレートケーキ。
無惨にも床に落ちる皿の音。
それらはまるで一瞬のスローモーションのよう。

「信じらんない...!」

床に散らばったケーキの残骸を見ながら、
顔を歪ませた飼い主は涙声で言った。

そう、戸棚の上から飛び降りようとした私は、
足が滑ったのか、ケーキの真上へと転げ落ちてしまったのだ。

「せっかく上手くいってたのに...」と、肩を落とす彼女。

反省の意味を込めて、「ニャア」とひと鳴きした私は、
そっと部屋を後にした。

飼い主にバレないよう、私はこっそりと窓の外へ出る。
向かったのはベランダ...から続く、隣りの家。
柵を乗り越え、お隣さんの窓をコツコツと爪でノックする。

ガラス越しに見えるのは、一人の男性の姿。
そう、飼い主とは違う学校に通う、大学生の男の子だ。

「わぁ、キミ、よく来たね」と言いながら、
彼は私を部屋の中へ入れる。

「この間も来てくれたよね。会いたかったよ」と、
優しく私の頭を撫でる。

これ以上ないくらいの猫なで声で、
私も満面の笑みで答える。
「私も会いたかったの」と。

それは真夜中に起きた、
ちょっとしたジェラシーがもたらしたもの。
だって、いいじゃない。
人間の女の子が好きな男の子に、
猫の私も好きになったって。

わざと仕掛けた簡単な罠にも気がつかない、
間の抜けた飼い主なんかより、
私の方がよっぽど彼にふさわしいはず。

大体、駿足な猫の私が、
足が滑ってケーキの真上へ落ちるなんてありえないから。

そして私は素知らぬ顔で、
口にくわえていたものを彼に差し出した。

飼い主の目を盗んで取ってきた、
"あの"チョコレートケーキの上に乗っていたプレートだ。

白いチョコペンで書かれてある言葉は、
『I love you』

(おわり)

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