SERIES

series > あべちえみ > スタートダッシュ > スタートダッシュ(後半)

スタートダッシュ

今日は体育祭。すっきりと晴れた秋空の下、全校生徒も先生も保護者も、みんな盛り上がっている様子だ。でも私の心は、なぜか下り坂。その理由とは…。

スタートダッシュ(後半)

すると今になって、
クラスのみんなが騒ぎ出したようだ。
応援席の方から、
けたたましい叫び声が聞こえてくる。
もっと早くから応援してくれれば、
私の気持ちも少しはテンションを上げられたのに。

しかし良かったのは最初の数秒だけだった。
やはりアンカーに選ばれた他のクラスの子たちは速い。

あっという間に後ろから足音が近づいてくる。
追い抜かされる焦りと共に、
どこからか突然、昨日までの悔しさが滲んできた。

どうしても解けなかった数学の問題。
ケンカ別れをしたままの友だち。
出せずにしまった好きな人への手紙。

今この瞬間とは関係のない出来事たちが、
「悔しい気持ち」という一本の枝につるを伸ばし、
頭の中でからまり始めた。

こんがらがるつるの中を、
もがきながら掻き分けるかのように、
私は足を動かした。

逃げるように必死で走る私の横を、
一人、二人、三人と追い抜いていく。

最下位になってしまうまで、あと一人。
あと一人に抜かれたら、私は完璧ビリだ。

やるせなさと同時に、
一瞬、思わず気が抜けそうになった。

もういいじゃないか。
ここまで走ったのだし。
それに、どうせ私、好きで選手になったわけではないのだから。

その時だった。応援サイドから聞こえてきた言葉。

「勝負はまだ終わってないぞ!」

ハッとした。心の目が覚めたようだった。 

そうだ。まだ勝負は終わっていない。
最後まで諦めずにレースを走り切るまでは、
全ての勝負はまだ終わらないんだ。

数学の問題も、友だちとの仲も、彼への想いも。
そして、このリレーの行方も、何もかも。

その瞬間、視界が急に開けた。
からまっていたつるはどこかへ消え、
後悔の枝は空中でポッキリと音を立てて折れた。

目の前にはただ、
一本の白線が引かれた大きなコースが広がっているだけだ。

靴ひもを縛り直すかのように、
私は心の中で再びスタートダッシュをした。

もう一度、走り出そう。
せめて自分自身にだけは追い抜かれぬように。

(おわり)

«前に戻る

次に進む»

のアーカイブ一覧

CREATOR

<一覧へ

PHOTOSKI 写真×日常
COORDINATE
SPECIAL
SPECIAL
SERIES

<一覧へ

SOCIAL